劇団HoleBrothers「ヘルメット・オン・ザ・ビーチ」

あらすじ

タクシー運転手の綾瀬はさえない人生を送っていた。
安月給で彼女もいない。
友人も数えるほどで、これといった趣味もない。
30歳を過ぎても明るい未来は見えず、
ただ車窓から、きらびやかな街を眺めるだけの日々。

そんな彼が、ある日繁華街で拾った客は
中学生の頃に恋焦がれた女性だった―

隣のクラスで口をきいたこともなく、
いつも陰からそっと見つめるだけだった女の子。
彼女が美しく成熟した女性となり、後部座席に座っている。

綾瀬は十数年振りに震える胸を押さえながら、
ぽつりぽつりと故郷の話をはじめた。
思いがけない話題に彼女の声は弾む。

「実は僕―あなたと同級生なんですよ。」

興奮した綾瀬は思わず口走った。
が、口をきいたこともなく
地味な存在だった自分を覚えているはずなどない。
とその矢先、彼女はにっこりと微笑んだ。

「3組の綾瀬君でしょう?覚えてるよ。」

予想外の彼女の言葉に、綾瀬の頭は真っ白になる。
興奮でうわずる声を懸命に抑えながら、綾瀬はとめどなく話しつづけた。

どれほどの時間が経ったのか、
ふと気がつくと料金メーターが驚異的に跳ね上がっていた。
我に返った綾瀬は慌てて車を停め、後ろを振り返る。

「・・・どこまで行くの?」

彼女はうっすらと笑みをたたえて、
そっと答えた。

「・・・どこまでも。遠くまで連れて行って。」

怪しげに漂う視線の先には、真っ黒な海が広がっていた―